
| 今西錦司・棲み分け理論 |
|
山、探検、イワナ釣り、学問を混然一体として楽しみ、それぞれの世界でパイオニアの道を歩んだ京都大学名誉教授の今西錦司さんが1992年6月15日、90歳の生涯を閉じた。 「学問は人からではなく、自然から習うもの」 ダーウィンの進化論を知らないものはいない。しかし、今西学説と言われる「棲み分け理論」を知っている人は少ない。ダーウィンの進化論は、弱肉強食の論理である。いつも競争し、勝ったものだけが生き残り進化してきたという。エコノミックアニマルと呼ばれた日本人に、最も影響を与えた理論でもある。このダーウィンの進化論と真っ向から対立する理論が、実は「棲み分け理論」なのである。 卒業後の無給講師時代、趣味である山や谷を歩きながら水生昆虫の観察を行った。渓流の石ころを一つ一つ転がしながら、カゲロウの幼虫の分化を調べ、それが画期的な「棲み分け理論」の発見を生んだ。「棲み分け理論」とはどんなものか、それがなぜ画期的なのか。簡単に説明しよう。 渓流の流れを想像していただきたい。両岸は流れが緩く、中心部は流れが早い。そうした渓流の一断画に様々な形態の川虫が住んでいる。流れの緩いところには砂が溜まっている。その砂の中には、潜るのに適した(尖った丈夫な頭の)形態をもつ埋没型の川虫が住んでいる。流れの中では、糸のように細い足と泳ぎやすい流線形をした自由遊泳型、流れの早い中心部では、石にしがみつく丈夫な足をもった潜伏型や吸盤をもち、流水の抵抗を少なくする平たい体をもっている。 狭い渓流の中で多種多様な川虫たちが、隣り合わせで共存しながら進化してきた。あるものは、生きた生物を食べ、あるものは死んだ生物あるいは落ち葉を食べて成長する。同じ場所で生きていくためには、競争することを避け、それぞれの住む場所を「棲み分け」ながら、その環境に適合するために外部形態を進化させてきたという。 これを人間の社会に、当てはめると、ダーウィンの進化論は「弱肉強食の世界」であり、今西理論は「共生の世界」なのである。ここが、決定的に違う点である。 21世紀は「共生の時代」だとするならば、人間の心の中にある「弱肉強食」の論理は、捨てるべきときであろう。それに代わって、自然から教えられた「棲み分け」の論理、「共存、共生の論理」の視点に立脚すべきであると思う。 |