戸村大由沢土地改良区が管理する大由沢ため池 |
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| 2001年11月18日、五城目町小倉の大由沢ため池で、ブラックバスの緊急駆除が実施された。地元の人たちがこれまで慣れ親しんできた豊かな水辺空間を守ろうと、ため池を管理する戸村大由沢土地改良区をはじめ、地元住民、八郎湖増殖漁協など、約60名が参加し、約200匹のブラックバスを捕獲駆除した。 |
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| 大由沢ため池は、貯水量約73万トン、受益面積387ha(農家戸数535戸)に及ぶ、県内でも大規模なため池の一つである。この地域では、米づくりに欠かせない水が不足し、水争いも絶えなかったことから、大正年代にため池が築かれた。以来、農業を営む人々のたゆまない働きかけの中で、豊かな自然や景観が形成され、今日まで大切に守られてきた。 ところが、3年ほど前から見たこともないブラックバスの生息が確認されるようになり、今では、エビやゴリなどの小魚が激減してしまったという。これに危機感を抱いた戸村大由沢土地改良区は、ブラックバスの緊急駆除を行うことを決めた。ため池の水は、11月1日から徐々に水を抜き、ほぼ池が干し上がった状態で行われた。 |
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ブラックバス駆除本部前で、ため池を管理する戸村大由沢土地改良区の椎名金作理事長のあいさつに続いて、小倉集落の住民を代表して佐藤会長があいさつ。「子供の頃から慣れ親しんできた小倉の堤は、十和田湖か田沢湖にも匹敵するくらい美しい景観で、人一倍愛着を持っています。 ところが、3年ほど前からブラックバスの姿が見えはじめ、これまで慣れ親しんできた、エビやコイ、フナなどが絶滅の危機に瀕しています。こんな荒れ果てた現状を見るにつけ、何とも情けない気持ちで一杯でした。・・・ このたび、関係各位のご尽力のおかげでブラックバスを駆除できる運びになり非常に感謝しています。・・・かつてのような豊かな自然環境を皆で取り戻したい」と語った。 |
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| 池のほとりの散歩道(2001年ため池サミット・in・やまぐち宣言より) | |
すみれ たんぽぽ れんげそう![]() ききょう かるかや まんじゅしゃげ 幼ごころに しみついた 指に折りつ ふるさと思う 池のほとりの 散歩道 昔 棚田の 上手には きっとあったね ため池が 暮れる山間 手をつなぎ 木橋渡った 蛍狩り 遠く別れた 旧友の名浮かぶ 池のほとりの 散歩道 めだかすくい 小鮒つり 泥にはまって しじみとり 幼ごころに やきついた めぐる季節の よろこびを 空に描きつ ふるさと思う 池のほとりの 散歩道 |
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| 「小倉川を五城目町で一番きれいにする会」(小倉集落)が大由沢ため池の入り口に掲げた看板。この願いもむなしく、北米原産のブラックバスが何者かによって密放流され、わずか数年で爆発的に増えてしまった。右の写真は、貯水池につき釣り禁止の看板だが、何者かによって倒されていた。 | |
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| いくら池の水を抜いたとはいえ、これだけ水があれば素人では魚を捕獲するのは無理。強力な助っ人・八郎湖で漁業を営む漁師さんたちの全面協力を得て、ブラックバスの捕獲作戦が始まった。ため池の深場に大きく網をかけ、網の中に魚を追い込み捕獲する作業が続いた。 | |
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| 捕獲したブラックバス。この丸々太った魚体は、餌が豊富で成長の早さを物語っている。 | 捕獲したブラックバスやフナ類の入った網をボートで運ぶ。 |
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| 池中心部の捕獲を終え、今度は放流口付近で網の中に追い込み捕獲。 | |
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| 網で捕獲されたブラックバス | 最下流・土砂吐ゲート付近に設置した網に入った魚たち。 |
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| タモ網でブラックバスを捕獲しているところ。右の写真は、タモ網に入ったブラックバス。刺し網、投網、タモ網、ボートを駆使し、徐々に捕獲数が増えていった。 | |
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| 35センチ前後のブラックバス。こんな山奥のため池に、いつ、誰が、何の目的で密放流したのだろうか・・・どのぐらいのサイズを、どれだけ放流したかは不明だが、魚影が確認されてから、わずか3年ほどしかたっていないことを考えると、サイズは意外に大きい。 ブラックバスの成長は早く、2年で20センチを超え、3年魚で30センチ前後になり、産卵行動をするようになるという。河口湖では、3年で全長40センチ以上の記録もある。大由沢で捕獲されたブラックバスは、30センチ前後、約3年前から生息が確認されたサイズを考えると、ほぼ確認された時期に生まれたブラックバスと推定できる。 |
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| 水産漁港課、水産振興センターの職員によるブラックバスの体長等測定作業。 |
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| 移入種・ブラックバスの繁殖は淡水魚類の脅威 | |
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| 捕獲されたブラックバスの腹を切り裂き、胃の内容物を調査。右の写真が、バスの胃袋から出てきたものだが、同類のバスとの判定だった。前日に駆除を実施した大館市手代沼でも、共食いを示す衝撃的な事実が判明した。比較的小さな止水域・ため池では、わずか数年で、食べやすい小魚たちを食べ尽くし、共食いをしているという恐るべき実態が明らかになった。 ブラックバスの危険性については、日本魚類学会が監修した「日本の希少淡水魚の現状と系統保存」(緑書房)にも詳しく述べられている。 「日本産淡水魚が直面する最大の生物学的課題は、移入種に伴う生物多様性への干渉であり、それは生態学的かく乱と遺伝的汚染に集約 される。・・・生態学的かく乱のさらに深刻な例は、ブラックバスで代表される外来魚の移植放流である。ブラックバスは、わが国には見られなかったスズキ型の魚食魚で、すでに日本の淡水域においても在来種を食害することが明らかになっている。本種は、赤星鉄馬氏により北アメリカから神奈川県芦ノ湖へ移植されてから今日まで、約70年の間に日本全域の池沼へ広がり、現在では日本産淡水魚の中で最も分布の広い魚種の一つとなっている。この背景には爆発的なルアー釣りブームがあり、釣り人らが池や沼に次々に密放流したことが直接的な原因と思われる。・・・釣具メーカーには、ブラックバスのルアー釣りをゴルフ規模の産業まで育成する計画があるという。 ・・・近年、河川を主なすみかとする同属のコクチバスも密かに導入され、すでに宮城県・山梨県・長野県・滋賀県の水系において繁殖している。流れを好むという生態学的特徴から判断して、面的な分布域の拡大は必至と思われる。」 すでに専門家の間では、ブラックバスの繁殖が淡水魚類の脅威であることを認めている。さらに、流れのある川や渓流、山上湖にも生息できるコクチバスの密放流と面的拡大は、淡水魚全体の危機であると警告している。 |
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| 大量に捕獲駆除したブラックバスは、土地改良区の組合員らが持ち帰って処分した。もちろん食用にするために持ち帰った人も多く「バター焼きにすると意外においしい」「皮を剥げば、生臭味もなく、どんな料理でも美味い」と言いながらクーラーボックスに詰め込む人もいた。 国際自然保護連合(IUCN)は、ブラックバスのような大型の肉食動物は環境に与える影響が大きく、世界のワースト100の外来種として取り上げている。既に日本魚類学会、日本生態系学会、日本蜻蛉学会などでは、安易なゾーニング案に反対、「外来魚が侵入した水域においては、必要性や緊急度に応じて積極的に駆除・撲滅するという、従来の方針を堅持していただきたい」と、学会としては極めて異例の要望書を決議し関係機関に提出している。秋田県におけるブラックバスの駆除作戦は、こうした全国的な動きと地元の人たちの危機感を受けて実施されていることを改めて確認しておきたい。 |
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| ため池は、地域の生物多様性を支える貴重な空間 | |
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| 捕獲されたバスは、最大36センチ、約200匹。椎名理事長は「早めに、ほとんどのバスを駆除できてよかった」と語った。(右の写真は、洪水吐下流に再放流されたフナ類)。 水生植物の専門家・角野康郎氏は「ため池における生物多様性の保全」(「農山漁村と生物多様性」家の光協会)と題して次のように述べている。(一部要約) 「ため池は、かんがい用水を確保するために築造された人工的な水域である。 それゆえであろうか、ため池が豊かな自然を育む貴重な水辺の空間であるという認識は、一般に根づいていない。・・・しかし、各地でため池の生物調査が進むにつれて、ため池が水辺の多様な生き物たちにとって、かけがえのない生活空間であることが明らかになってきた。・・・ため池に蓄えられた貴重な水は、取水時間を集落や個人ごとに制限する慣行があり、丹精こめて守られてきた。秋の収穫が終わると、ため池の水を抜き、村総出で魚を捕った。これは重要なタンパク資源にもなった。 有機質に富んだ底の泥をさらい田畑に入れて肥料代わりにすることもあった。池の底を空気にさらし干すことで、ヘドロの堆積を防ぎ、池底の環境を改善したり、水生植物群落の遷移が進むことを阻む効果もあった。このような人間による維持管理と共存してきたのが、ため池の動物や植物たちであった。 ・・・ため池だけに生育している水草の中には、絶滅危惧種にリストアップされている種が少なくない。同様のことは、トンボやゲンゴロウなどの水生昆虫にもあてはまる。日本に分布する約180種のトンボのうち、80種がため池を主な生活場所としている。・・・植物、昆虫、魚類、水鳥などさまざまな生物群にとっても、ため池が地域の生物多様性を支える貴重な空間になっている」 |
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| 角野氏は、さらに生物多様性を支えるため池に、密かに放流され異常繁殖したブラックバスについて次のように述べている。 「・・・環境の悪化だけが、ため池の生物相を破壊しているのではない。ブラックバス(オオクチバス)の例に顕著に示されるように、外来種の移入がため池の生態系に壊滅的な影響を与える事例が増えている。゛バス釣り゛は、湖ばかりでなく、゛野池゛、つまり各地のため池に広がった。最近になって、゛バス釣り゛の犯罪性をめぐる議論が広がりはじめたが、ブラックバスの密放流は、いまもあとを絶たない。つい先日までメダカなどの在来種が泳いでいたのどかなため池も、釣り人の姿を見かけたときには手遅れである。」と厳しく批判している。 |
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| ため池、水路、田んぼ・・・地域の長い歴史を物語る貴重な文化財 | |
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| (上の写真は、大館市手代沼で行われたブラックバスの駆除とフナ類の救出作戦) 土地改良区が長い間管理してきたため池が、単なる農業水利施設として考えるならば、ブラックバスの問題は、釣り人のマナーや安全管理上の問題でしかないだろう。しかし、ため池は地域の農業を支えるだけでなく、地域の生物多様性を支える水辺空間として貴重な存在であることが一般に認知されてきた。こうした環境保全に対する高まりを受けて、「環境に配慮した農業農村整備」を掲げた土地改良区・・・ブラックバスの緊急駆除は、農業水利としての機能を守りながら、同時に農村のもつ豊かな生態系を守る新たな挑戦の一つでもあることを見逃してはならないだろう。 ![]() 小倉集落の佐藤会長がブラックバス緊急駆除に先だちあいさつした言葉を今一度かみしめたい。「子供の頃から慣れ親しんできた小倉の堤は、十和田湖か田沢湖にも匹敵するくらい美しい景観で、人一倍愛着を持っています。ところが、3年ほど前からブラックバスの姿が見えはじめ、これまで慣れ親しんできた、エビやコイ、フナなどが絶滅の危機に瀕しています。こんな荒れ果てた現状を見るにつけ、何とも情けない気持ちで一杯でした。」 人間と自然とが共に生きてきた貴重なため池の生態系を維持管理し、守ってきたのは、受益農家で構成する土地改良区である。しかし、高齢化や後継者不足、過疎化が急速に進み、ため池の維持管理が困難になってきているばかりか、自分の田んぼでさえ耕作を放棄する人たちが年々拡大しているのが現実だ。これに追い討ちをかけるように、何者かによってブラックバスが密放流され、これまで地域に愛された魚たちが消え去ろうとしている。この危機的状況は、佐藤会長が「こんな荒れ果てた現状を見るにつけ、何とも情けない気持ちで一杯でした。」と述べた言葉に凝縮されている。 豊かな水辺空間を守ることには、誰も異論を唱えない。しかし、この危機的状況に追い込まれた現状を考えると、ため池を管理する土地改良区や農家の人たちにおんぶにだっこでは、もはや農村の美しい景観や生物多様性は守れないだろう。今こそ、数百年、数千年にわたって維持されてきた田園空間全体を、地域の長い歴史を物語る文化財として位置づけ、農家、非農家を問わず、地域が一丸となって保全に取り組むことこそ、21世紀に生きる我々の責務ではなかろうか。 |
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